「13 歳からのアート思考」[2020, 末永 幸歩]を読みました.
まとめと感想について記述していきます.
概要・まとめ
導入
本書では,自分なりのものの見方・考え方の方法として,「アート思考」というものを提案しています.
また,絵画を見たときに,絵を見る時間よりも説明文を見る時間の方が長いこと,ただ答えを見る確認作業であると問題提起をします.
タイトルの「13 歳」というワードは,図工が小学生に最も人気な授業の一つであるのに,美術が最も不人気な授業の一つであることに起因しています.
しかし,「すべての子どもはアーティストである.問題なのは,どうすれば大人になったときもアーティストのままでいられるかだ」という,言葉を元に,「自分だけのものの見方・考え方」を取り戻し,アートのように考えることを目的に本書の授業が始まります.ここでアートのように考えるとは,以下の要素です
- 「自分だけのものの見方」で世界を見つめ
- 「自分なりの答え」を生み出し
- それによって「新たな問い」を生み出す
本書では,「アーティスト」を,表現の花,興味のタネ,研究の根を持つ人たちであると定義し,特に興味の根を伸ばすことに夢中であると述べています.
対比として,似たような,表現の花を量産する人を「花職人」と定義しています.
6 つの「20 世紀のアート作品」とクラス
1. 20 世紀のアートを切り開いたアーティスト
- 緑のすじのあるマティス夫人の肖像(1905)
- アンリ・マティネス(1869〜1954)
- カメラの登場により写実的な絵画に対して,「アートにしかできないこと」に挑戦した作品
2. 「史上最も多作のアーティスト」の代表作
- アビヨンの娘たち
- パブロピカソ
- 正確無比な遠近法に隠された「ウソ」や「半分のリアル」しか描けないことに対して疑問を投げかけた作品
- 遠近法で捉えていない写実的な絵画は,人の注視的な視点を捉えていないことから「非現実的」であるとした
3. アート作品の「見方」とは?
- コンポジション Ⅶ
- カンディスキーが描いた抽象画
- 具象物を描かない絵
- 音楽の経験からメロディーのような絵を描いた
- 「なに」が描かれているかわからなかったからこそ,惹きつけられる絵
- 2 種類のアートに見方
- 背景とのやりとり
- 作者の考え
- 作者の人生
- 歴史的背景
- 評論家による分析
- 美術史における意義
- 作品とのやりとり
- 製作者と作品のやりとり
- 作品と鑑賞者のやりとり
- 背景とのやりとり
4. 「アートに最も影響を与えた 20 世紀の作品」第一位
- 泉(Foundation)
- マルセル・デュシャン
- 男性用の小便器にサインをして,「泉」と名付けただけ
- R.MUTT というサインは,マルセルが主催の作品だったため
- 「視覚」から「思考」へ
- 「視覚で愛でることができる表現」という前提があった
- 「泉」は「表現の花」を極限まえ縮小し,反対に「探究の根」を極大化した作品
- 「アート=視覚芸術」からの開放
5. 一風変わった書き方の先にあるもの
- ナンバー 17A
- ジャクソン・ポロック
- 歴代 5 番目の超高額で取引されたアート作品
- 書き方が珍しいからではなく,描き方を通じて「自分なりの答え」を生み出したから
- アートにしかできないことに対する究極の答えを生み出した
- 「窓」を見て,「窓そのもの」を見る人は少ない.逆に,「床」を見ると「床」そのものを見る.
- このような「絵画なら絵を見る」という常識を超えて,物質としての絵そのものを捉えた作品
6. 城壁を崩した作品
- ブリロ・ボックス
- アンディー・ウォーホル
- ポップなデザインの不思議な木箱
- ブリロのロゴやパッケージデザインを,そっくりそのまま木箱に写しとっただけ
- カナダ国立美術館はブリロ・ボックスをアートではなく商品と判定した
- その2年後の館長はブリロ・ボックスをアートだと判定した
- 「アートの枠組み」のイメージ
- 城
- 彫刻,絵画,建築
- 市民
- 大衆商品
- 城
- デュシャンでさえ,「アートという確固たる枠組み=城壁」があった
- ウォ=ホルの「ブリロ・ボックス」は,その城壁を崩す or 元々ないものだと認識させることになった
結論
「ただアーティストがいるだけ」
- 目に見える世界の模倣はカメラによって終わった
- 20 世紀以降は様々な,「アートにしかできないこと」の考察がおこなわれた
- 「これがアートだというようなものは,ほんとうは存在しない」
- 「ただアーティストたちがいるだけだ」
- エルンスト・ゴンブリッチ
課題解決と価値創出
- 真のアーティストとは,課題解決だけでなく価値創出をおこなっている
- 「探究の根」を伸ばすことに熱中している
- 「花」が咲いているかどうかは大きな問題ではない
- アーティストは「絵を描いている人」や「ものをつくっている人」ではない
- 「自分の興味・好奇心・疑問」を皮切りに,「自分のものの見方」で世界を見つめ,探究を進めることで「自分なりいの答え」を生み出すことができる人
アート思考
- 「常識」や「正解」にとらわれず,「自分の内側にある興味」をもとに,「自分のものの見方」で世界をとらえ,「自分なりの探究」をし続けること
感想
コンセプトは「アート思考」なので,通常の思考方法のビジネス本や,美術知識本のような形式の説明はないです.
元々,中高生の授業向けの内容だったので難しい表現などは使わず,とてもわかりやすいです.
美術知識本ではないといっていますが,アートの歴史を年代順に解説しているので,美術の入門書としても最適に感じました.
特に,近代アートなどが,なぜこのようになったのかは,本書の内容読むと理解できます.
また,アートはただ絵を描くだけではないということ,「アーティスト」とは,表現の花,興味のタネ,研究の根を持つ人たちである,特に研究の根を伸ばすことに夢中という言葉は,自分が仕事や勉強をするときに考えさせられるし,大きな支えになる言葉だとだと思いました.
ただし,花だけを作る人「アーティスト」と似て異なる存在のことを「花職人」と表現するのは,少し言い過ぎだと思いました.わざわざ比喩表現までして区別するようなことだったのでしょうか?
また,「13 歳」という言葉を強調するには,あまり関係ないような気がしました.「13 歳からのハローワーク」,「13 歳からの金融入門」などのようなタイトルが多いのであやかっている感が否めません.
全体的な感想としては,少しだけ著者の強い思想などを感じ取れる部分がありましが,全体的にはとても読みやすく,20 世紀アートの変遷とアート思考による「自分なりの答え」の見つけたを知ることができる本だと思いました.
美術館に行く機会がある人や少しでも美術観賞に興味がある人には,とてもおすすめできる人です.